「いただきます」から広がる食の世界：子どもの好き嫌いを考えるヒント
食事のあいさつと、子どもの食への向き合い方
小学校の先生方にとって、子どもたちの好き嫌いは、給食の時間や食育の授業でしばしば直面する課題かと存じます。どうすれば、子どもたちが様々な食べ物に興味を持ち、苦手なものにも少しずつ挑戦できるようになるでしょうか。
実は、「いただきます」や「ごちそうさま」といった食事のあいさつには、子どもたちの食への関心を高め、好き嫌いを考えるきっかけを与える大切な力があると考えられます。これらのあいさつが、単なるマナーや習慣にとどまらず、食との向き合い方を深める第一歩となる可能性についてお話しいたします。
「いただきます」が育む「食への意識」
食事の前に「いただきます」と言うことには、様々な意味が込められていることは、多くの先生方がご存知の通りです。命あるものをいただくことへの感謝、食べ物を作ってくれた人への感謝、料理をしてくれた人への感謝などです。
この「感謝」の気持ちを伝える行為は、子どもたちに「今、目の前にある食べ物は、誰かや何かの恵みによって、自分のところに来たものだ」という意識を芽生えさせます。この意識は、食べ物自体への関心を高めることにつながります。「これはどこから来たのかな？」「どんな風に育つのかな？」といった素朴な疑問や好奇心を刺激するのです。
苦手な食べ物であっても、「これも大切な命なんだ」「これも一生懸命作られたものなんだ」と感じることで、「ちょっとだけ向き合ってみようかな」という気持ちにつながることが期待できます。
感謝の心が挑戦を後押しする可能性
「ごちそうさま」も同様に、食事を終えられたこと、美味しくいただけたことへの感謝を表します。この感謝の気持ちは、食事ができた環境や、提供された食べ物そのものへのポジティブな感情を育みます。
例えば、一生懸命育てられた野菜や、遠くから運ばれてきた魚について、「ありがとう」の気持ちを持つことで、「どんな味がするんだろう」「どうしてこんな形なのかな」といった探求心が生まれることがあります。これは、見た目や先入観だけで「嫌い」と決めつけるのではなく、一度受け入れてみようという姿勢につながる可能性があるのです。
感謝の気持ちが、新しい食べ物や苦手な食べ物に対する心の壁を少しずつ低くし、「せっかくだから一口だけ挑戦してみよう」という行動を後押しする土壌を作るのかもしれません。
安心できる食卓環境と挑戦する勇気
食事のあいさつをきちんと行い、感謝の気持ちが自然に交わされる食卓は、子どもたちにとって安心できる場所となります。穏やかで肯定的な雰囲気の中で食事をすることは、新しい食べ物や苦手な食べ物に挑戦する際の不安を軽減する効果が期待できます。
「食べられなくてもいいよ、一口だけ味見してみようか」「これは頑張って育ててくれた〇〇さんの野菜だよ、どんな味がするかな？」といった声かけも、あいさつによって培われた感謝や食べ物への敬意の気持ちがあるからこそ、子どもたちの心に響きやすくなります。
子どもたちに伝えるためのヒント
授業や日常の中で、子どもたちに食事のあいさつと好き嫌いのことを結びつけて伝えるための具体的なヒントをいくつかご紹介します。
- 食べ物の「物語」を伝える: 目の前の食べ物が、太陽の光を浴びて育ち、雨の恵みを受け、農家の方が汗を流して育て、お店に並び、食卓に届くまでのストーリーを話してみましょう。「いただきます」は、その長い旅をしてきてくれた食べ物への「ようこそ」「ありがとう」の気持ちなんだよ、と伝えます。
- 五感で味わう体験を促す: 「このリンゴ、どんな音がするかな？」「この野菜、どんな匂いがする？」「舌の上でどんな風に感じるかな？」など、五感を使って食べ物を観察する声かけをしてみましょう。あいさつの後、食べる行為に意識を向けることで、食べ物そのものへの興味が深まります。
- 「一口チャレンジ」と感謝: 苦手な食べ物でも、まずは「アリさんの一口」だけ挑戦する目標を立てます。もし食べられなくても、「挑戦したこと」や「目の前に食べ物があること」への感謝の気持ちを言葉にすることの大切さを伝えます。「食べるのは難しかったけど、ここまで来てくれてありがとうだね」など、ポジティブな言葉を添えます。
- 食卓の会話を豊かに: 食事中に、今日の献立に使われている食材について話題にします。「この大豆は何に変身するかな？」「この魚はどこから来たのかな？」といった会話は、子どもたちの食への好奇心を自然に育みます。あいさつはその会話の始まりや区切りとして機能します。
まとめ
「いただきます」や「ごちそうさま」といった食事のあいさつは、単に食事を始める・終える合図ではありません。それは、食べ物への意識を高め、感謝の気持ちを育み、新しいものに挑戦する心の準備を促す、大切な文化的習慣です。
これらのあいさつに込められた意味を丁寧に伝え、実践することで、子どもたちは食べ物そのものへの関心を深め、苦手なものとも向き合う勇気を得ていくでしょう。日々の食事のあいさつを、子どもたちの豊かな食の世界を広げる一歩として、ぜひ教育現場で活用していただければ幸いです。