「いただきます」「ごちそうさま」に込められた感謝の気持ちを伝える授業のヒント
はじめに:食卓のあいさつが持つ意味
小学校の先生方にとって、日々の給食の時間や食育の授業で、子供たちに「いただきます」「ごちそうさま」の大切さを伝える機会は多いかと思います。しかし、これらの言葉が単なる食事の始まりと終わりの合図ではなく、日本の豊かな食文化や、深い感謝の気持ちが込められた大切なあいさつであることを、子供たちにどのように伝えれば良いか、悩むこともあるかもしれません。
このあいさつには、私たちが食事をいただけるまでの、目に見えないたくさんの支えへの感謝が込められています。この記事では、「いただきます」と「ごちそうさま」という二つの言葉に焦点を当て、それぞれに込められた意味や由来を分かりやすく解説し、子供たちにその本当の意味を伝えるための授業のヒントをご紹介します。
「いただきます」に込められた感謝の気持ち
「いただきます」という言葉は、古くは仏教の考え方に由来するとも言われ、食卓に並んだ食べ物の「命をいただく」ことへの感謝を表すと言われています。
考えてみてください。私たちが普段食べているお米や野菜は、元々は土の中で育つ植物の命です。お肉やお魚は、動物や魚の命です。これらの命をいただくことで、私たちは自分の命をつなぎ、元気に活動することができます。
「いただきます」と手を合わせる行為には、まさにこの「命を私のために捧げてくれてありがとう」という、深い敬意と感謝の気持ちが込められているのです。
子供たちに伝える際には、次のような点を意識すると良いでしょう。
- 食べ物にはすべて「いのち」があること: お米一粒、小さなおかず一つにも、それが食卓に届くまでには、植物や動物の「いのち」が関わっていることを話します。例えば、稲穂の写真や、野菜が土から採れる様子、魚が泳いでいる絵などを見せながら、「このご飯粒も、元々は一つのいのちだったんだよ」と語りかけることができます。
- 「いのち」をいただくことで自分が元気になること: 食べ物が私たちの体を作り、動く力になることを伝えます。「みんなが元気に遊んだり勉強したりできるのは、ごはんのおかげだね。ごはんになるために、いのちを分けてくれたお米さんや野菜さんに『ありがとう』を言おうね」というように、自分自身とのつながりを実感させます。
- 手を合わせるジェスチャーの意味: 手を合わせることは、日本では感謝や敬意を表す丁寧な仕草であることを教えます。「ありがとう」の気持ちを込めて手を合わせるのだと伝えます。
「ごちそうさま」に込められた感謝の気持ち
「ごちそうさま」という言葉は、「馳走(ちそう)」という言葉が元になっています。「馳走」とは、お客様をもてなすために、馬を「馳せ(はせ)」て走り回り、準備を整えるという、大変な苦労を伴う行為を指しました。ここから転じて、「ごちそう」は立派な食事そのものを意味するようになり、「ごちそうさま」は、その食事を用意するために「馳走」してくれた人々の労力や心遣いに対する感謝を表す言葉となったのです。
食卓の「ごちそう」は、決して一人で作られたものではありません。畑で汗水流して野菜を育てた農家さん、海に出て魚を獲った漁師さん、それを運んでくれた人、お店に並べてくれた人、そして、それを調理して食卓に並べてくれたおうちの人や給食室の先生。本当にたくさんの人たちの手によって、私たちは食事をいただくことができます。
「ごちそうさま」と伝えることは、食事が無事に終わったことへの感謝だけでなく、これらの食事に関わってくれたすべての人々の「ご苦労様でした」「大変な中、ありがとうございました」という気持ちを伝えることなのです。
子供たちに伝える際には、次のような点を意識すると良いでしょう。
- 食事を作る大変さ: 給食の先生が朝早くからたくさんの料理を作ってくれること、おうちの人が買い物に行き、料理の準備や片付けをしてくれることなど、身近な例を挙げて食事を作るための苦労があることを話します。「みんなが『おいしいね』って食べられるように、たくさんの人が頑張ってくれているんだよ」と伝えます。
- 「馳走」という言葉の由来を簡単に: 難しい言葉を使わず、「ごちそう」っていう言葉にはね、昔、みんなのために一生懸命走り回ってくれた人の気持ちが入っているんだよ、と優しく説明します。
- 関わってくれた人への感謝: 食材を育てた人、運んだ人、料理を作った人、配膳してくれた人など、たくさんの人の努力があって食事ができていることを、絵や写真などを使って視覚的に示すのも効果的です。
子供たちに伝えるための授業のヒント
これらの内容を子供たちに伝えるためには、一方的な説明だけでなく、子供たちが自分で感じ、考えることができるような工夫を取り入れることが大切です。
- 問いかけをする: 「このご飯はどこから来たのかな?」「どうやってここまで来たと思う?」「誰が私たちのために頑張ってくれたかな?」など、子供たちの想像力を掻き立てる問いかけをします。
- 役割分担を体験する: 簡易的な調理体験や、給食の準備・片付けを通して、食事ができるまでには様々な工程があり、多くの人の働きがあることを体感させます。
- 絵本や歌を活用する: 食事をテーマにした絵本や、感謝の気持ちを歌った童謡などを活用し、楽しみながら学ぶ機会を提供します。
- 給食の時間に実践する: 毎日の給食の時間に、「今日の給食は、〇〇さんが作ってくれました。△△産の野菜が使われています。」など、具体的な情報に触れながら「いただきます」「ごちそうさま」の意味を呼びかけます。
- 感謝のメッセージを伝える活動: 食材を作ってくれた農家さんや漁師さん、給食室の先生などに、感謝の気持ちを込めたお手紙や絵をかく活動も有効です。
まとめ
「いただきます」と「ごちそうさま」は、私たちの食事が、たくさんの命や人々の働きによって支えられていることを思い出させてくれる、とても大切な日本のあいさつです。これらの言葉に込められた感謝の気持ちを子供たちが理解することは、食への関心を深め、食べ物を大切にする心を育むことにつながります。
小学校の先生方には、これらのあいさつの深い意味を、子供たちの心に響く言葉で伝え続けていただきたいと思います。日々の食育や授業の中で、今回ご紹介したヒントが少しでもお役に立てれば幸いです。子供たちが、感謝の気持ちを持って「いただきます」「ごちそうさま」と言えるようになること、そして、その気持ちを忘れずに成長していくことを願っています。