声に出す「いただきます」が子どもを育む:あいさつが持つ「言葉の力」の伝え方
なぜ食事のあいさつは「声に出す」のでしょうか?
食事のあいさつ、「いただきます」「ごちそうさま」。多くの方が日常的に口にするこの言葉ですが、なぜ私たちはこれらの言葉を声に出して言うのでしょうか。心の中で感謝したり、食事を終えたことを思ったりするだけでは不十分なのでしょうか。
小学校で子供たちに食事のあいさつを教える際、単に「言いましょう」と伝えるだけでなく、「なぜ言うのか」という理由を分かりやすく説明することが、子供たちの理解を深め、あいさつをより意味のある習慣として身につける助けとなります。ここでは、食事のあいさつを「声に出す」ことの意味について考え、子供たちに伝えるヒントをご紹介します。
言葉にすることで生まれる「意識」
食事のあいさつを声に出す一番の理由は、言葉にすることで、その行為や対象に対する意識が高まるという点にあります。
心の中で思うことは、時に曖昧であったり、他の考え事に紛れてしまったりすることがあります。しかし、声に出して言葉にすることで、私たちは「今、自分は何をしようとしているか」「何に対して気持ちを向けているか」をはっきりと認識することができます。
これを子供たちに伝えるには、例えば次のように説明できます。
- 「心の中で『ありがとう』って思うのも大切だけど、声に出して『いただきます』って言ってみると、目の前のごはんが『あ、これから食べるものなんだな』とか、『このごはんのために色々な人が頑張ってくれたんだな』って、もっとはっきりわかるようになるんだよ。」
- 「声に出すことで、頭の中がごはんを食べるモードにカチッと切り替わるスイッチみたいになるんだね。」
言葉として発することで、食事を始めるという行為への区切りが生まれ、これから口にする食べ物への意識を向けやすくなります。
言葉が持つ「コミュニケーション」の力
食事のあいさつは、時に一人で食べる時にも使いますが、多くの場合、家族や友達、クラスのみんなと一緒に食べる際に使われます。声に出すことで、その場にいる人たちとのコミュニケーションや一体感を生み出すことができます。
みんなで「いただきます」と声を揃えることで、「さあ、一緒に食事を始めましょう」という合図になり、食卓に一体感が生まれます。また、食事を作ってくれた人や、食材を育ててくれた人、そして食べ物そのものへの感謝の気持ちを、その場にいるみんなで共有することができます。
子供たちには、このように伝えてみてはいかがでしょうか。
- 「みんなで一緒に『いただきます!』って言うと、『これからみんなでごはんを食べるぞー!』っていう楽しい気持ちになるよね。まるで、みんなで同じ目標に向かう時の合言葉みたいだね。」
- 「声に出して言うことで、ごはんを作ってくれたお家の人やお友達、学校の先生に『作ってくれてありがとう』の気持ちを伝えることができるんだよ。心の中で思うだけじゃ、相手には伝わらないからね。」
声に出すあいさつは、食卓を囲む人々との繋がりを感じさせ、感謝の気持ちを共有する大切な手段となります。
習慣化と行動への繋がり
食事のあいさつを声に出して繰り返すことは、食事への感謝の気持ちや、食に関わる人々への敬意を習慣として身につける助けとなります。
単なるお決まりのフレーズではなく、声に出すという行動を伴うことで、体の感覚としても「食事の前には感謝の言葉を言う」ということが染みついていきます。この習慣が、食べ物を大切にすることや、食事のマナーを守ることなど、具体的な行動に繋がる土台となります。
子供への説明としては、以下のような例が考えられます。
- 「毎日『いただきます』って声に出して言うと、ごはんを食べる前に感謝する気持ちが、体にも心にもどんどん身についていくんだ。まるで、歯を磨くみたいに、当たり前の大切なことになっていくんだね。」
- 「『いただきます』って言えるようになると、ごはんに『ありがとう』って思えるから、残さず食べようとか、大切に食べようって気持ちが自然と生まれてくるんだよ。」
声に出すという具体的な行動は、感謝の気持ちを内面に留めるだけでなく、それを習慣化し、食に関する様々な良い行動へと繋げていく力を持っています。
授業で使えるヒント
子供たちに「声に出すあいさつの力」を伝えるために、授業で以下のような活動を取り入れてみてはいかがでしょうか。
- あいさつの「前」と「後」の気持ちの変化: 何か食べ物(おやつなどでも良い)を用意し、「いただきます」と心の中で思った時と、声に出して言った時で、食べ物に対する気持ちや意識に何か変化があるか、子供たちに発表してもらう。
- 言葉の力を絵にしてみよう: 「いただきます」という言葉が、どんな「力」を持っているか想像して絵を描いてもらう。例えば、「ごはんを美味しくする力」「感謝の気持ちを運ぶ力」「みんなと仲良くなる力」など、子供たちの自由な発想を促す。
- 「ありがとう」を届ける声: 誰かが作った料理の写真などを見せながら、「この料理を作ってくれた人に、『いただきます』の『ありがとう』の気持ちを届けるには、どんな声で言えばいいかな?」と問いかけ、声の出し方(元気よく、心を込めてなど)を考える。
まとめ:言葉の力で豊かな食卓を
食事のあいさつを「声に出す」というシンプルな行為には、食べ物への意識を高める力、食卓を囲む人々との繋がりを深める力、そして感謝の気持ちを習慣化し行動に繋げる力など、様々な「言葉の力」が込められています。
これらの意味を子供たちに分かりやすく伝えることで、単なる決まり文句としてではなく、自分自身と食べ物、そして他者との関係性を意識する、豊かな食卓の第一歩として、食事のあいさつを捉えてもらうことができるでしょう。ぜひ、日々の食育活動の中で、食事のあいさつが持つ「言葉の力」について子供たちと一緒に考えてみてください。