学校給食で活かす食事のあいさつ:子どもたちへの伝え方
はじめに:給食の時間は学びの宝庫
日々の給食の時間、子どもたちは「いただきます」「ごちそうさま」のあいさつをしています。このあいさつは、単なる習慣として唱えるだけでなく、日本の食文化や感謝の心を学ぶ大切な機会となります。特に学校給食は、多くの人が関わって一つの食事が完成する場であり、その背景にある様々な恵みや支えに気づくのに最適な環境です。
ここでは、小学校の先生方が、給食の時間を活用して子どもたちに食事のあいさつの意味を深く伝え、豊かな心を育むためのヒントをご紹介します。
「いただきます」に込められた意味を伝える
「いただきます」という言葉は、食べる前の感謝を表す日本の伝統的なあいさつです。これを給食の時間に子どもたちに伝えるとき、どのような点を強調できるでしょうか。
1. 命への感謝
私たちが食べるお米、野菜、お肉、お魚などは、全て元は生きている「命」であったものです。植物も動物も、私たちの体を作るためにその命を分けてくれています。「いただきます」は、その「命」をいただくことへの感謝の気持ちを表す言葉であると伝えましょう。
- 子どもへの伝え方ヒント:
- 「このお米は、太陽の光を浴びて育った稲の命だよ」「お肉は、私たちの体と同じように心臓も動いていた牛さんや豚さんの命だよ」のように、具体的な食材と「命」を結びつけて話します。
- 食べ物の絵本や写真を見せながら説明すると、より理解が深まります。
2. 作ってくれた人への感謝
給食は、たくさんの人の手によって私たちの食卓に届けられます。畑で野菜を育ててくれた農家さん、海で魚を捕ってくれた漁師さん、食べ物を工場やお店に運んでくれた人、そして何より、温かい給食を作ってくれた給食センターや学校の調理員さん。これらの人たちの働きがあるからこそ、私たちは毎日おいしい給食を食べられるのです。
- 子どもへの伝え方ヒント:
- 「このカレーライスには、玉ねぎを作った人、お肉を育てた人、じゃがいもを掘った人、そしてみんなのために朝早くから給食を作ってくれた調理員さんがいます。たくさんの人が関わっているんだね」と、具体的な職業や役割を挙げながら説明します。
- 可能であれば、調理員さんの仕事の様子を写真で見せたり、調理員さんから子どもたちへのメッセージを伝えたりするのも効果的です。
3. 食べ物そのものへの感謝
食べ物は、私たちの体を動かすエネルギーになり、元気に育つための栄養をくれます。当たり前のように毎日食べられること自体が、とてもありがたいことなのです。
- 子どもへの伝え方ヒント:
- 「給食を食べると、力が湧いてきたり、病気にかかりにくくなったりするね。食べ物はみんなの体にとって大切な宝物だよ」と、食べ物が自分の体にもたらす良い影響に触れます。
- 世界には十分に食事ができない子どもたちがいるという話を、発達段階に合わせて優しく伝えることも、食べ物への感謝を考えるきっかけになります。
「ごちそうさま」に込められた意味を伝える
「ごちそうさま」は、食事が終わった後の感謝を表すあいさつです。この言葉には、「馳走(ちそう)」という言葉が関係しています。
1. 「ごちそうさま」の由来と意味
「馳走」とは、昔、お客様をもてなすために馬を走らせて(馳せ)、あちこちから珍しい食材を集めてきたことに由来すると言われています。つまり、「ごちそう」とは、お客様のために奔走して準備した特別なお料理のことでした。
そこから転じて、「ごちそうさま」は、食事のために心を配り、準備してくれた人(食材を集めたり、料理を作ったり、運んだりしてくれた人)への感謝の気持ちを表す言葉となりました。
- 子どもへの伝え方ヒント:
- 「『ごちそうさま』にはね、『この食事のために、あちこち走り回って一生懸命準備してくれてありがとう』という気持ちが込められているんだよ」と、由来を簡単な言葉で伝えます。馬に乗って食材を集める絵を見せるのも面白いかもしれません。
- 給食の場合、「今日の給食も、私たちのために一生懸命作ってくれた調理員さん、運んでくれた人、片付けをしてくれる人、みんなに『ありがとう』を伝える言葉だよ」と具体的に伝えます。
2. 食べ物を大切にする気持ち
「ごちそうさま」は、提供された食事を最後まで大切にいただいた、という感謝の気持ちも表します。好き嫌いなく食べようと努力することや、食べ残しを減らそうと意識することも、「ごちそうさま」の心につながります。
- 子どもへの伝え方ヒント:
- 「『ごちそうさま、おいしかったです』と言って、きれいに食べられたら、給食を作った人もきっと嬉しいね。食べ物を大切にすることも、感謝の気持ちだよ」と伝えます。
- 給食の残量をクラス全体で確認し、どうすれば残さず食べられるか子どもたちと一緒に考える時間を持つことも有効です。
授業での活用アイデア
給食のあいさつを、単なる習慣で終わらせないために、授業や学級活動で関連する内容を取り入れてみましょう。
- 食べ物の感謝ビンゴ: 給食で使われている食材について、どこから来たか、誰が作ったかなどを調べてビンゴ形式にする。
- 「ありがとう」新聞作り: 給食に関わる様々な人(農家、漁師、調理員、牛乳屋さんなど)の仕事内容を調べ、感謝の気持ちを込めた新聞を作る。
- 食べ物の一生: お米や野菜などが、種からどのように育ち、食卓に届くのかを追う。命が食べ物になるまでの大変さを学ぶ。
- 調理員さんへの手紙: 給食を作ってくれる調理員さんへ、日頃の感謝の気持ちを手紙で伝える。
- 食事のあいさつ劇: 「いただきます」「ごちそうさま」の場面を子どもたち自身が演じ、それぞれの言葉に込められた気持ちを表現する。
先生自身の姿勢が大切
子どもたちは、先生の行動や言葉をよく見ています。先生自身が給食のあいさつを丁寧に行い、感謝の気持ちを言葉にしたり、食べ物を大切にする姿を見せたりすることが、子どもたちの学びにとって何より大切です。
まとめ:給食の時間を豊かな学びの時間に
給食のあいさつは、子どもたちが「命の恵み」や「たくさんの人々の支え」に気づき、感謝の心を育むための入り口です。給食という身近な題材を通して、これらの大切な意味を繰り返し、そして様々な角度から伝えていくことで、子どもたちの心に豊かな食文化と感謝の気持ちが根付いていくことでしょう。日々の給食の時間が、子どもたちにとって単に空腹を満たす時間ではなく、学びと感謝に満ちた時間となることを願っています。