「いただきます」「ごちそうさま」が育む子どもの心:あいさつがもたらす心理的な効果
食事のあいさつは、心と体を育む土台となります
毎日の食事の際に交わされる「いただきます」「ごちそうさま」。これらの短いあいさつは、単なる食事のマナーとしてだけでなく、子どもたちの健やかな心と体の成長において、非常に重要な役割を果たしています。小学校での食育の時間などを通して、子どもたちにこのあいさつの深い意味や、自分自身の成長にどう繋がるのかを伝えることは、大変有意義なことです。ここでは、食事のあいさつが子どもたちの心にどのような良い影響をもたらすのか、心理的な側面から分かりやすくご紹介いたします。
1. 感謝の気持ちを育む「いただきます」
「いただきます」という言葉には、食事に関わる多くのものへの感謝の気持ちが込められています。
- 命への感謝: 食材となる動物や植物の命をいただくことへの感謝。
- 作った人への感謝: 食材を育てた農家の方、漁師の方、そして料理を作ってくれた人への感謝。
- 配膳してくれた人への感謝: 食事を準備し、運んでくれた人への感謝。
子どもたちにこの感謝の気持ちを伝える際には、具体的な例を挙げてみましょう。例えば、「このお米は、農家さんが毎日お世話をして育ててくれたんだよ」「お魚は、海で一生懸命泳いで生きていた命なんだね」など、具体的な食材や関わった人の姿を想像させる言葉が有効です。
あいさつをすることで、子どもたちは自然と自分以外の存在に目を向け、感謝する心を育んでいきます。これは、他者を思いやる優しい心を育てる上でも大切な第一歩となります。
2. 食事への集中力を高める「いただきます」
食事の始まりに「いただきます」と声を出すことは、気持ちを切り替え、これからの行為(食事)に集中するための合図となります。
- 行動の区切り: 遊んでいた時間から食事の時間へと、意識を切り替えるための区切りとなります。
- 注意の集中: 食事そのもの、つまり目の前にある食べ物や、一緒に食べる人たちに意識を向ける助けとなります。
学校生活においても、授業の始まりや終わりのあいさつが気持ちの切り替えに役立つのと同様に、食事の始まりのあいさつは「今から食事の時間です」という意識づけを促します。これにより、落ち着いて食事に向き合い、味わって食べることに繋がります。これは、偏食の改善や、食事中の落ち着きといった、食行動の改善にも間接的に役立つ可能性があります。
3. 食卓でのコミュニケーションを円滑にするあいさつ
家族や友達と一緒に食事をする際、全員で声を合わせて「いただきます」「ごちそうさま」と言うことは、一体感を生み出し、食卓でのコミュニケーションを円滑にする効果があります。
- 一体感の醸成: 同じタイミングであいさつをすることで、「一緒に食事をしている」という仲間意識や一体感が生まれます。
- 会話のきっかけ: 食事の始まりと終わりのあいさつは、その後の会話や、「美味しかったね」「〇〇さんの料理好きだな」といった感想を伝え合うきっかけにもなります。
特に子どもにとって、食卓は安心できるコミュニケーションの場です。あいさつを通して、そこで交わされる言葉や表情に触れることは、言葉の力や人間関係の基本を学ぶ大切な機会となります。
4. 自分を大切にする気持ちを育む「ごちそうさま」
「ごちそうさま」という言葉には、美味しく食事ができたことへの満足感とともに、「自分の体が食事によって満たされたこと」への感謝や労りの気持ちも含まれます。
- 満足感の表現: 食事を通して満たされたお腹と心に対する、素直な満足感を表現する機会です。
- 自己肯定感への繋がり: 食事をきちんと終え、あいさつをすることで、「自分は食べることを大切にしている」「自分の体を満たしている」という意識に繋がり、自己肯定感を育む一助となります。
食事は、自分の体を維持し、成長させるための基本的な行為です。この行為を大切にし、感謝の気持ちで終えることは、自分自身の心と体を大切にすることにも繋がります。
子どもたちに食事のあいさつを伝えるためのヒント
- まずは大人が実践する: 子どもは身近な大人の真似をします。先生や保護者が、心を込めてあいさつをする姿を見せることが最も効果的です。
- 理由を分かりやすく話す: なぜこのあいさつをするのか、食材や作った人への感謝の気持ちなど、具体的な理由を子どもの言葉で説明します。「〇〇ちゃんが元気に遊べるのも、ご飯のおかげだよ」など、子ども自身に繋がる言葉を選ぶと良いでしょう。
- 強制するのではなく、一緒に言う: 強制されると反発することもあります。最初は一緒に声を出すことから始めたり、「〇〇って言ってみようか」と優しく促したりします。
- 絵本や歌、紙芝居などを活用する: 食事のあいさつをテーマにした教材はたくさんあります。視覚や聴覚に訴えることで、子どもたちは興味を持ちやすくなります。
- 感謝の対象を広げる: 食材だけでなく、食事ができる環境(安全な場所、綺麗な食器など)や、一緒に食べる人への感謝にも目を向けられるように促します。
まとめ
「いただきます」「ごちそうさま」という食事のあいさつは、単なる決まり文句ではなく、子どもたちの心に感謝の気持ち、集中力、コミュニケーション能力、そして自分を大切にする気持ちといった、豊かな心を育む大切な習慣です。これらのあいさつの深い意味を、子どもの成長段階に合わせて丁寧に伝えることで、子どもたちは食を通じて心と体の両方を健やかに育んでいくことでしょう。日々の食育の中で、ぜひこのあいさつの力を活用してみてください。