食事のあいさつ学

食事のあいさつと五感:食の豊かさを子どもに伝えるヒント

Tags: 食事のあいさつ, 五感, 食育, 小学校, 教材, 授業, 感謝

はじめに:食事のあいさつと五感の関係

私たちは日々の食事を通して、様々な情報を受け取っています。それは単に栄養を摂取するというだけでなく、五感、すなわち「見る」「聞く」「嗅ぐ」「味わう」「触る」といった感覚を通して、食の豊かさや楽しさを感じ取ることでもあります。

日本の食事のあいさつである「いただきます」や「ごちそうさま」は、単なる形式的な言葉ではありません。これらの言葉には、食卓に並んだ食べ物への感謝の気持ちや、食事を用意してくれた人への敬意が込められています。そして、これらのあいさつは、実は私たちが食事を五感でより深く感じ、その恵みに気づくための大切な機会にもなり得ます。

この記事では、食事のあいさつと五感の関係について掘り下げ、小学校で子供たちに食の豊かさを伝えるためのヒントをご紹介いたします。

食事を五感で感じるということ

私たちが食事をする時、五感はそれぞれ異なった役割を果たしています。

これらの五感が連携し合うことで、私たちは食事全体を豊かな体験として認識することができます。

「いただきます」が五感を意識させる?

食事の前に言う「いただきます」は、「命をいただくことへの感謝」や「作ってくれた人への感謝」など、様々な意味が込められているとされています。このあいさつをする時、私たちは自然と目の前の食事に意識を向けます。

この「意識を向ける」という行為は、実は五感に働きかけるきっかけとなり得ます。

例えば、「いただきます」と言う前に、少しだけ目の前の料理をじっと見てみましょう。色とりどりの野菜、つやつやのご飯、香ばしい焼き魚など、視覚情報が飛び込んできます。次に、立ち上る湯気を嗅いでみましょう。美味しそうな香りが食欲をそそります。

このように、「いただきます」という行為を通して、私たちは無意識のうちに、これから食べる食事を五感で受け入れる準備をしていると言えるかもしれません。感謝の気持ちを持つことと、目の前の食べ物を注意深く観察することは、密接につながっているのです。

「ごちそうさま」が五感の体験を振り返る機会に

食事を終えた後に言う「ごちそうさま」は、「走り回って準備してくれたことへの感謝(馳走)」や「食事そのものへの感謝」を表します。

このあいさつをする時、私たちは食べたもの、その食事体験全体を振り返ります。「美味しかったね」「このお魚、ふっくらしてたね」「お味噌汁、いい香りがしたね」など、食事中に五感で感じたことを思い出すきっかけになります。

「ごちそうさま」と言うことで、私たちは単に食べ終わったことを伝えるだけでなく、五感を通して得られた豊かな食の体験を心の中で反芻し、それに対する感謝の気持ちを形にしていると言えるでしょう。

子どもに伝える:五感を意識した食事のあいさつのヒント

小学校で子供たちに食事のあいさつの大切さを教える際に、五感の視点を取り入れることは、子供たちの興味を引きつけ、食への関心を深めるのに役立ちます。

具体的な伝え方や授業でのヒントをいくつかご紹介します。

  1. あいさつの前に「五感で感じる時間」を作る:

    • 「いただきます」と言う前に、数秒間、静かに目の前の食事を観察する時間を作ってみましょう。
    • 「このご飯、白いね。お野菜はどんな色かな?」「お味噌汁からどんな匂いがするかな?」など、具体的な問いかけをすることで、子供たちが意識的に五感を使うよう促します。
    • 「この『見る』『嗅ぐ』が、『いただきます』の前の大切な準備だよ」と伝えることができます。
  2. 食事中に五感を意識する声かけ:

    • 食事中に「このお野菜、シャキシャキするね」「お魚、どんな味がする?」「今日のご飯はどんな匂いかな?」など、五感に焦点を当てた声かけをすることで、子供たちは自然と五感を意識するようになります。
    • 「美味しいね」という感想だけでなく、「どんなところが美味しい?」と尋ねることで、味覚だけでなく、食感や香りなど、多様な感覚に気づかせることができます。
  3. 「ごちそうさま」の後に「今日の発見」を発表:

    • 「ごちそうさま」を言った後に、「今日の給食で、五感を使って気づいたことは何かな?」と問いかけます。
    • 「大根が甘かった」「今日のカレーはスパイシーな匂いがした」「パンがふわふわだった」など、子供たちが五感で感じたことを言葉にする機会を作ります。
    • これにより、食事体験がより記憶に残り、五感への気づきが深まります。
  4. 五感と食事のつながりを図やイラストで示す教材:

    • 「見る」「聞く」「嗅ぐ」「味わう」「触る」それぞれの感覚と、それに関わる食べ物や体験のイラストを組み合わせたポスターやワークシートを作成します。
    • 例えば、「見る」の横には色鮮やかなサラダ、「嗅ぐ」の横には湯気の立つお味噌汁、といった具合です。
    • 「いただきます」や「ごちそうさま」が、これらの五感の恵みに対する感謝の気持ちであることを分かりやすく示します。

まとめ

食事のあいさつは、単なる社会的なマナーとしてだけでなく、私たちが食の恵みを五感で感じ取り、感謝する心を育むための大切な習慣です。

「いただきます」を通して目の前の食事に意識を向け、「ごちそうさま」を通して五感で味わった体験を振り返る。この一連の流れは、子供たちが食に対する関心を深め、食べ物への感謝の気持ちを育む上で、とても効果的です。

小学校での食育において、食事のあいさつと五感のつながりを意識的に取り入れることは、子供たちがより豊かに食を体験し、健全な心身を育むための素晴らしい一歩となるでしょう。日々の食卓や給食の時間を通して、子供たちと一緒に五感を使って食の豊かさを感じてみてはいかがでしょうか。