「いただきます」「ごちそうさま」が広げる食卓の会話:子どもと実践するコミュニケーション
食事のあいさつは、日本の食文化において大切な習慣の一つです。「いただきます」や「ごちそうさま」といった言葉は、単なる食事の始まりや終わりを示す合図だけではなく、食卓を囲む人々の間に豊かなコミュニケーションを生み出すきっかけにもなります。
子どもたちに食事のあいさつの意味を伝える際、感謝の気持ちや命の大切さに加えて、「みんなで一緒に食事をする楽しさ」や「気持ちの良いやり取り」といった、コミュニケーションの側面からアプローチすることも非常に有効です。
なぜ食事のあいさつはコミュニケーションにつながるのか
食事のあいさつは、食卓におけるスムーズなコミュニケーションの導入となります。
- 食事開始・終了の合図: 「いただきます」という言葉は、「さあ、一緒に食事を始めましょう」という合図になります。これにより、みんなで同じタイミングで食事が始まり、一体感が生まれます。
- 感謝の共有: 「いただきます」には食べ物や作ってくれた人への感謝が、「ごちそうさま」には料理への労いや共に食事をした人への感謝が込められています。これらの感謝の気持ちを言葉にすることで、食卓にいる人同士が互いを思いやる気持ちが育まれます。
- 会話のきっかけ: あいさつに続けて、「これ美味しいね!」「今日の給食は何かな?」といった会話が自然と生まれます。あいさつが、食事という共有体験について話す最初のきっかけとなるのです。
子どもに伝えるコミュニケーションとしてのあいさつ
子どもたちに食事のあいさつがコミュニケーションに果たす役割を伝えるには、具体的な場面を想定して説明すると良いでしょう。
「もし、誰も何も言わずに黙って食べ始めたら、なんだか少し寂しい気持ちになるかもしれないね。でも、『いただきます』とみんなで声を揃えると、『よし、一緒に美味しく食べようね』という気持ちになれるよね。食べ終わった後も、『ごちそうさま、美味しかったよ』って言うと、作ってくれた人はとっても嬉しい気持ちになるし、一緒に食べたお友達や家族も『そうか、美味しかったんだな』って安心したり、自分もそう思っていたことを伝えたりできるね。」
このように、あいさつが相手の気持ちにどう影響するか、自分の気持ちをどう伝える手助けになるかを具体的に話すことが大切です。
食卓で実践するコミュニケーションのヒント
食事のあいさつをきっかけに、食卓でのコミュニケーションを豊かにするための実践例をいくつかご紹介します。
- あいさつ+感想: 「いただきます」の後に、「今日のカレー、いい匂い!」や、一口食べて「わあ、このお野菜甘いね!」など、食事に関する簡単な感想を付け加えることを促します。「ごちそうさま」の後には、「〇〇(料理名)が特に美味しかったよ」「全部食べられて嬉しかった」といった具体的な言葉を添えるように促します。
- 感謝の対象を具体的に: 「いただきます」の際に、「このお米を作ってくれた農家さん、お料理してくれたお母さん(給食の先生)に感謝して、いただきます」のように、感謝の対象を具体的に挙げることで、子どもは様々な人の関わりや努力を意識しやすくなります。
- 今日の出来事を話す時間: 「いただきます」をして食事が始まったら、「今日は学校でね…」のように、その日あった出来事を話す時間を作るのも良いでしょう。あいさつが、食事が始まる合図となり、自然な会話の流れを生み出します。
- 「ありがとう」を伝える練習: 食事の準備や後片付けを手伝ってもらったときに、「ありがとう」と伝える習慣をつけます。これにより、食卓での感謝の気持ちを言葉にすることに慣れていきます。
授業や教材への活用例
- ロールプレイング: 「レストランごっこ」や「おうちごはんごっこ」で、お客さん役と作る人・運ぶ人役に分かれ、「いただきます」「ごちそうさま」のやり取りや、その後の会話を演じてもらう。
- 絵や写真の活用: 様々な食卓の風景の絵や写真を見せ、「この人たちはどんな気持ちで食事をしているかな?」「どんなお話をしていると思う?」と問いかけ、子どもたちに想像を広げてもらう。あいさつをしている場面としていない場面を見比べ、雰囲気に違いがあるか話し合う。
- 「ありがとう」探しワークシート: 一回の食事で、誰に、何に「ありがとう」を言いたくなるか、書き出す(または絵を描く)ワークシートを作成する。食べ物を作ってくれた人、運んでくれた人、一緒に食べてくれた人、命をくれた食べ物など、様々な視点から感謝の気持ちを掘り下げる。
食事のあいさつは、ただの決まり文句ではなく、食卓を囲む人々の心を通わせる温かい言葉です。これらのあいさつが、子どもたちの食卓をより楽しく、より豊かなコミュニケーションの場へと変えていく手助けとなることを願っています。