食卓のあいさつを拡張する：準備や片付けへの感謝を子どもと学ぶ
「いただきます」「ごちそうさま」といった食事のあいさつは、日本の食文化において非常に大切なものです。これらのあいさつに込められた感謝の気持ちを子どもたちに伝えることは、食育の重要な柱の一つです。しかし、感謝の対象は、目の前の食べ物や作ってくれた人だけでしょうか。
食事に関わる一連の行為、つまり食材を育て、運び、調理し、そして食後の片付けまで、そこには様々な人々の働きや、自然の恵み、そして多くの手間がかかっています。こうした食に関わる全てのプロセスへの感謝の気持ちを子どもたちに伝えることは、「いただきます」「ごちそうさま」の意味をより深く理解させることにつながります。
この記事では、「いただきます」「ごちそうさま」に加えて、食事の準備や片付けに焦点を当て、そこに関わる感謝の気持ちをどのように子どもたちに伝え、日々の教育活動に活かせるかをご紹介します。
食事の準備への感謝を伝える
食事が食卓に並ぶまでには、多くの段階があります。これらの「準備」に関わる人や出来事への感謝を、子どもたちに分かりやすく伝えてみましょう。
誰が、何をしてくれたの？
食事の準備に関わるのは、家庭であれば調理をしてくれた人、学校給食であれば給食室の調理員さんたちです。しかし、さらに遡ると、その食材を作ってくれた農家さん、漁師さん、運んでくれた方々など、たくさんの人々の働きがあります。
- 子供への伝え方:
- 給食時間に、「今日の〇〇（メニュー）は、〇〇さんが一生懸命作ってくれましたよ」と具体的に伝える。
- 食材の写真や絵を見せながら、「このお米は田んぼで作られました。雨が降ったり、太陽の光を浴びたりして大きくなりました。お米を作ってくれた人がたくさんお世話をしてくれました」のように、自然の恵みと生産者の働きを話す。
- 給食当番の活動を通して、配膳する人への感謝の気持ちを考える機会を持つ。
かかる「手間」を教える
料理をするには、食材を洗う、切る、煮る、焼く、といった様々な工程があります。一つ一つの料理が、どれだけの手間をかけて作られているかを知ることも、感謝につながります。
- 子供への伝え方:
- 簡単な調理体験（野菜を洗う、ちぎるなど）を通して、準備の一端を体験させる。
- 給食ができるまでの様子の写真や動画を見せる。
- 「給食室では、たくさんの人の分を作るために、朝早くから準備していますよ」「今日のカレーは、玉ねぎを切るのにたくさんの時間がかかっています」のように、具体的な作業や時間を伝える。
食事の後片付けへの感謝を伝える
食事が終わった後も、感謝を伝える大切な機会があります。それは、食器を片付け、食卓をきれいにする「後片付け」です。
誰が、何をしてくれたの？
家庭であれば片付けをする人、学校であれば給食当番や、食器を洗う人（職員さんや洗浄機）がいます。片付けは、次に気持ちよく食事ができるように、また衛生を保つために非常に大切な役割です。
- 子供への伝え方:
- 給食の時間に、使った食器を自分で運ぶ、きれいに重ねるといった活動を通して、片付けに関わる行動を促す。
- 「次に使う人が気持ちよく食事ができるように、きれいに片付けてくれてありがとう」のように、片付けをする人や、その行動の意義への感謝を言葉にする。
- 給食当番が片付けをしている様子を見ながら、「みんなのために片付けをしてくれていますね。ありがとうの気持ちを伝えましょう」と促す。
片付けの「意味」を考える
片付けは単に物を元の場所に戻すだけでなく、食べ物に感謝し、環境をきれいに保つという意味も持ちます。
- 子供への伝え方:
- 「残さず食べることも、食べ物への感謝であり、片付けを楽にすることにもつながります」と、食べ残しを減らすことと関連付けて話す。
- 「食器をきれいに洗ってくれる人がいるから、また明日も気持ちよく給食を食べられますね」と、片付けが未来の食事につながることを伝える。
授業や学校での実践例
これらの「食に関わる全体への感謝」を伝えるために、小学校では様々な活動が考えられます。
- 食育の授業: 食材がどのように育つのか、料理にはどんな工程があるのかを学び、感謝の気持ちを発表する。
- 生活科・家庭科: 簡単な調理や片付けの体験を通して、食に関わる労力を実感する。
- 給食時間: 調理員さんや給食当番への感謝のメッセージを書く、放送で感謝を伝えるといった活動を取り入れる。
- 掲示物・ワークシート: 食事に関わる様々な人や物事（太陽、雨、土、生産者、運ぶ人、調理する人、片付ける人など）を絵や言葉で表現し、感謝の矢印をつなぐワークシートを作成する。
まとめ
「いただきます」「ごちそうさま」は、食に関わる感謝の気持ちを表現する素晴らしい日本の文化です。これに加え、食事の準備から片付けまで、食に関わる全ての人々や恵みへの感謝を子どもたちに伝えることは、感謝の心を育み、食べ物や関わる人々を大切にする心を養うことにつながります。
日々の給食時間や食育の授業の中で、具体的な言葉がけや活動を通して、子どもたちが食に関わる全体像を理解し、深い感謝の気持ちを持てるよう働きかけていくことは、教師として非常にやりがいのある取り組みと言えるでしょう。このような学びを通して、子どもたちの食卓はより豊かなものになるはずです。